ホーチミン便り

第六回 Nov. 5, 2011                           2012.09.10掲載

歩道の両側は食堂?
歩道の両側は食堂?

 ホーチミンに滞在するのも残すところあと1ヵ月となりました。運動不足解消のためと好奇心に引かれて、よく街中を歩きました。NHKで外国の街をあてもなくジグザグに歩く番組、あれと似た感じです。

 ベトナム人の体格は最近の日本人より華奢だと感じます。男女とも太った人はそれほど多くいません。これは遺伝子的にそうなのか、長く続いた戦争をはじめとする混乱でしっかりとした栄養摂取ができなかったのが原因かはわかりませんが・・・日本でチビの私でもこちらで、人ごみに紛れると平均的です。ただし、世界中の傾向と同じで、子供は肥満が極端に多いです。ピザハット、ケンターキー、ロッテリアなどのファストフードの店では子供が騒ぎまわり、カロリーの高そうな、油にまみれたようなものにかじりついたり、アイスクリームで口の周りをベトベトにしています。一般のベトナム人の食事は野菜類が多く、食べる量は比較的少ないと感じます。朝はアジアの常識:路上のフォー(いろいろな種類の麺がある)か、バインミー(フランスパンというかコッペパンというか、これにチャーシューや肉そぼろのようなものとモヤシほかいろいろな野菜をはさみこんだもの)をプラスチックの小さなイス、テーブルで食べるか、職場へ持ち込むのが普通です。フォーには別皿で「レモングラス、香草、モヤシ、タデ(食う虫も好き好きの)、サツマイモの葉っぱ・・・」実に多くの野菜?がつきます。こちらに長くいる日本人によると、この野菜がくせもので、この国に来て最初の通過儀礼を受ける(激しい下痢)元凶だそうです。

路上のパン屋
路上のパン屋

ベトナムでは今、すごい勢いで英語学習熱が広まっています。小学生から社会人まで、夜間も土曜も日曜も英語学校は人でいっぱいです。私のいるホテルにはこういう英語学校で英語を教える、英国人、オーストラリア人、ニュージーランド人、カナダ人などが1~2か月の単位で滞在しており、年何回か順番に来て、ある一定の単位を教えているようです。シンガポール、インドネシア、タイ・・・などの国を巡回教授しているとのことでした。

 ニュージーランドの気のいい人と朝食仲間となり彼が滞在していた1か月毎朝25分程度ブレックファスト・ミーティグのように多くのことを話しました。 ベトナム人が日本語を発音するとき、意識的に発音訓練していないと話していることの半分もわかりません。文に書くとまったく完璧な日本語であっても、母語ベトナム語の6声調にひきずられた発音になるからです。英語でも同じだとニュージランド人も言っていました。「ほんさのきのはどちがうのでちゅか」と言われてもにわかには理解できません。でも文を書くと「本社の機能はどう違うのですか」とキチンと書くのです。

 

 ベトナムにはFAHASAという国営の本屋が全土に60店舗ほど、ホーチミン市内には10店以上あり、あらゆる種類の本を売っていますが、6、7割がベトナム語で書かれた本、2、3割が英語の本、その他:中国語、韓国語の本が1割あるかないか、日本語の本は辞書が3,4種類だけです。英語の本はケンブリッジとオックスフォードの幼稚園レベルから小~高校、大学生、さらに充実しているのが産業分野別の英語学習テキストです。看護師、医師などの医療エキスパート、スチュワーデスなどCabin Crew、Automobile Industry従事者、Petro Chemical Industry従事者・・・Restaurant waiter, waitress、Call center operator、ありとあらゆる産業分野別の英語訓練テキストが用意されています。時間をかけて英語力全般を強化するより、基礎的英語が終わったら、早く現場で仕事ができるよう実務的英語を身に着けるほうが効率的であり、その中でもっと上を目指す人は自主的に努力向上すればいいという考えのようです。

 

 一方、日本語状況はといいますと、日本国としての日本語教育の方針がまったくはっきりしません。ベトナムに進出する日系企業数の予測をもって経済界とベトナム人日本語要員の必要数、必要日本語レベル、その教育サポートを検討、政府民間と応分の分担、負担をする・・・こんな体系的なものはありません。大学は別として、ベトナム人経営の塾のようなものが(ちょっと古いイメージでいうと:ソロバン塾のような)、何人かの日本人非常勤講師を置いてやっている日本語学校に頼っているようです。そこの日本人教師もほとんどが薄給で生活するのが精一杯、彼女らのボランティア的働きによって支えられている状態です。ハイクラスな語学学習体制でもフランスのアリアンセ・フランセーズ、イギリスのブリティシュ・カウンシル、ドイツのゲーテ・インスティテュートのような国を挙げた体制はありません。後追いの中国にさえ「孔子学院」というキチンとした国家戦略にのっとった体制があります。日本、世界の多くの大学の中に「孔子学院」が作られています。標準カリキュラム、テキスト、キチンと中国語教育教授法を身に着けた講師派遣などは「中国政府の負担」です。日本はJICA,国際交流基金・・・ほか多くの省別外郭団体により日本語教育がそれぞれバラバラになされている状況です。 

縫製工場
縫製工場

 今のベトナムで一番の問題は「人材不足」です、と政府も認めています。長い戦争で50歳以上のひとがほとんどいない、その下の年代の人も体系的教育を受けていません。ベトナム社会を目標に向けて計画を作り、実行プランを作り、変更管理をしていく・・・という多くの国が行っている官僚の基本的行動がまだうまく機能していないようです。言われればわかる、必要性もわかる、でもどこからどうやって誰がやっていくのか・・・経験がない、こういう話をしていくと思考停止してしまう・・・目の前の課題をこなしていくほかないという現状です。

 

 ベトナムは資源が豊かな国なのです。食料も鉱物資源も足りている。面倒くさいこと考えるより、おいしいものが食べられ、お金のある人はしゃれたカフェで、ない人は道端の小さいプラスチックのイスに座って、何時間もワイワイ、ガヤガヤとたわいない話を日がな一日過ごす・・・それでいいと思っているのではないか、と思うこともあります、もちろん悪いことではない。

 中国には欧米社会とは違った秩序(良い悪いは別として)があり、改革解放後、多くの摩擦を引き起こしながら、擦り合わせようとしてきたように思います。ベトナムはその秩序がどこにあるのかよくわからない・・・・北辰一刀流の免許皆伝の達人が相手を見て・・・・スキダラケだ、けれど、どこから攻めたら、どう返されるのかわからない・・・一打を打ち込めない、強いのか弱いのか・・・昔からの中国との摩擦、米国との代理戦争(本来はベトナムの国内・南北戦争)・・・これら組織化された中国、米国軍隊の行動様式、作戦に対し、次元を超えた別世界の方法論で戦っていたのかもしれません。

昼寝してるだけ!
昼寝してるだけ!

 そんなことはどうでもよくて、果物はたくさんある、メコン河には水がたくさんある、日に2,3時間のスコールはあっても、3日間続けて大雨が降るようなことはほとんどない(中部ではあるらしい)。日々の生活は大過なく過ぎてゆく。

 これが今、工業化社会になりつつあり、「9時はじまり」といったら「遅刻しないで9時には来ないと工場のラインが動かない」、TVは時間にコントロールされてるし、電車などのインフラが整えばそれなりの時間感覚は必要になってくる・・・・明日10時に!と声をかけたら、早い人が10時15分に来て次の人は30分ごろ来て、ヤアヤア先週はさ・・・と雑談して後の人を待ち、11時ころ全員が集まってワイワイと盛り上がって食事をし、適当におなかが膨れたら今日は終わりにして帰ろう!なんていうノンビリしたこともなくなるのでしょう。これがなくなるのが近代化というのでしょうか?悪いとか、嫌いだとか言っているわけではないですが・・・・

 

10月31日には地球人口が70億人を突破しました。こうなると老人は注意しないといけません。どんなに老いても生きている限り、政治参加の権利としての1票を持っています、ボケていても・・・。若い人たちにとって暗雲のように覆いかぶさり太陽を遮っているこの老人どもを始末すれば、国の借金も、年金問題も、就職問題も解決する可能性があるのです。若者に従順で、若者に媚びる老人、若者に役立つ老人のみを残して、あとは僻地に閉じ込め自給自足の生活を送ってもらう、故意に抹殺はできないけれど、次世代が快適に生活できるように、このような恐ろしい方策をネットの中で共謀し実行計画を練っているかもしれません。

ゆめゆめ安穏として老人ホームになど入っておれませんよ。老人は若者の行動を監視しなければいけません!

 

2011年11月5日@HCMC

               今福民生

 

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