ホーチミン便り

第八回 Nov.19, 2011                                2012/11/09掲載

街角でも先生の日のポスター
街角でも先生の日のポスター

 11月20日はベトナムでは「先生の日、教師の日」だそうです。これは祝日・休日ではありませんが、あちこちでセレモニーとして定着しているとのことです。ちょうど母の日が日本で普及していて、それぞれの家庭などで子供が母親に(昔だと)カーネーションの花を送ったり、囲んで食事したり・・・するのと似ています。幼稚園から大学まで生徒が先生にケーキや花束をあげるセレモニーがあるとのことです。

 もともとベトナムでは先生の給料がそれほどよくなく、カツカツの生活であったため教え子の親が年に一度、子供の指導への感謝の気持ちを込め、お礼をする習慣が広まったようです。それが会社でも行われるのです。私が今いるFPTと言う会社はIT会社なので新人にITスキルを教える研修コースが常に開催されています。また、企業内大学(一般の私立大学)も併設されています。よって、インストラクターがたくさんいます。この日「Happy Trainer’s Day」と呼んで「先生への感謝セレモニー」が会社の講堂を使用して大々的に行われました。

TVキャスターのような司会
TVキャスターのような司会

 11月20日が日曜日だったため日をずらして17日に開催されました。講堂は風船と花、きれいな紙細工で飾られ、講堂の真ん中を花道として赤いじゅうたんを敷き、FPT大学の生徒がその両側の床に座りこみワイワイ言いながら待ち構えています。講堂の正面には大型スクリーンが中央と左右にしつらえてあり、そこにインストラクターのスナップ写真が次ぎ次と投射されると、MC役の男女がインストラクターの名前をプロレスのアナウンサーのような調子で叫びます。座っている生徒がヤンヤヤンヤの拍手喝采、好き勝手な掛け声を懸けます。呼ばれたインストラクターは手を振りながら赤いじゅうたんの花道をはいってきます。中には腰を振ったり、投げキスしながら入ってきます。正面に用意された椅子にすわると、ボトル・ウォーターとお菓子が運ばれてきます。MCが吉本喜劇みたいな掛け合い漫才のようなトーク(どうもインストラクーのことをチャカしているようです)、参加している全員が笑い転げているのです。スクリーンにはジョークをアニメーションにしたようなもの、インストラクターに似せたキャラクターなどが、大音響とともに投射され、参加者はスペインの闘牛場、ヨーロッパのサーカー試合のような興奮と笑い声にうずもれていました。

 私も「ITビジネス日本語のアドバイザー兼インストラクター」ということでデカデカと写真が投射されて紹介されました。ただし、当の私は少々覚め気味で、なぜこんなにも子供っぽくハシャグのか、戸惑っていました。孫を抱いてる写真だったため誰かが「あの人(ジイサン)にこんなに小さい子供がいるのか?」と叫ぶと誰かが「孫だよ孫!」と言い返し会場が大笑いするのです。(会話の内容は隣に座った日本語通訳の人が教えてくれた)

 とにかくベトナムの平均年齢が27.7歳、人口の3分の1が30歳以下で特にIT企業のため50歳以上の人を見かけることはほとんどありません。日本式役職で言うと部長、本部長クラスの人でも30代前半か40歳代前半、課長クラスは20代も多くいます。しかしその稚気、子供っぽさはどこから来るのか・・・何か集まりがあるとすぐにたわいのない、昔TVでやっていたドリフターズのコントみたいなこととか、誰かが大きな声でジョークを言い、みんながヤンヤの喝さいを浴びせる、そんなことがよくあります。

 

 この会社にいるある日本人の方(私と似たような年齢)は、「マッカーサーは日本人を12歳と言ったようだが、私から言わせるとベトナム人は10歳にも満たない、幼稚性がいくつになっても 抜けない人たちだ」とおっしゃっていましたが、私も何となくそれを感じました。決してバカにしているわけではありません、別の目で見れば、明るく素直である、とも言えます。

 11月20日は日曜日だったのですが、「ITビジネス日本語」を教えているので、当日の朝、受講生の代表から携帯電話に連絡があり「本日はベトナムの先生の日です、19時から食事会を開きますので参加してください」といきなり言いますので「前からわかっているならもっと早く言って欲しいな」というと「ほかの日本語の先生日本人女性教師3人、ベトナム人女性教師1人みんな来てくれます、今福さんはだめですか?今日は先生の日なんです、参加してください」といいますので「わかった、参加するよ」というと「ありがとうごじゃいました」プツンと電話が切れました。どこでやるのか、どこへ行けばいいのかも伝えずに。

 

 ベトナムで一番大きい社員3,000人以上いるIT会社とはいえ、ベトナム社会の真っただ中にある会社ですからベトナムの社会的習慣、規律のあいまいさ、ユッタリとした時間感覚は事務所内の雰囲気にも表れています。8時20分過ぎに都心からの専属通勤バスが到着し、8時30分始まりとなっていますが、多くの人が席にカバンなど荷物を置くと食堂に行って朝食をたべます。席に戻るのは9時ころ・・・こういうのは9時始まりというのでは?

 欧米、日本で勉強し、ビジネスをしてきた人たちも、ベトナムに帰国したはじめの1年ほどは、「・・・だからベトナムはダメなんだ!」と嘆くらしいのですが1年過ぎると「欧米、日本は疲れるよ・・・ほんと、家族とか友達とダベル時間さえないんだよ!」と言ってキチンと本来のベトナム人の生活にもどるかたが多いのだとか。

 

 さて、先ほどの受講生に招待された食事会は焼肉屋(日本式、韓国式らしい)で行われ、これは日本の飲み会とほとんど同じ形式。宿舎まで受講生がヘルメット持参でバイクで迎えに来てくれ、その後ろにまたがりスリル満点の曲乗り、足の膝が隣の自動車にふれそうで、後ろを振り向き「先生バイクはどうですか、風が気持ちいですね!」「危ないから前を見ろ!」と言っても「?何があぶないの?」と一向に気にしません。食事が終わるとカラオケ屋が予約されていて、そこまで再びバイク!ここでも子供っぽさが大いに発揮され、日本人ベトナム人の女性の先生をちゃかしては、モッ、ハイ、バ、ヨー(1,2,3、乾杯)と言ってはビールの乾杯を重ねます。受講生の男性も小学生のように女先生に抱きつくように近寄り、「先生にはお世話になってます、大好きです」なんて平気で言ってるのです。それがいやらしく女性に近づくという感じではなく本当に小学生のようです。のってくるとみんなが輪になって手をつなぎ、ベトナムの歌をうたっては乾杯を重ねます。女先生たちも私の娘より若いですから一緒になって「うたのおねえさん」のようです。どうもこれにはのりきれない私はソファーでニコニコしてその様子を見ていると、入れ替わり立ち代わり気を使って様子をうかがいに来ます・・・・・12時近くまでこれが続きました。

 

 屈託のない、構えたところのない・・・力の抜けた、肌の触れ合いが濃い人間社会です。ビジネスの立場からはまだまだ「???だらけ」「言い訳ばかり」でときどき「どうしたらこうなるんだ?」と言いたくなることばかりが目につきますが、街で喧嘩してるところをほとんど見ませんし、顔見知りになると言葉がわからなくても話しかけてくる、このように人との関係性が色濃い社会です。前駐ベトナム大使 坂場三男氏の表現では「成長盛りの青年が、成熟した壮年向けテキスト<不適切なテキスト>で勉強し、実施中・・・という感じ」と言っていますが、<不適切なテキスト>とは小学生が高校生のテキストを使っている・・・というようなことなのでしょうか?残り少ない日々でわかりますかどうか・・・・・

 

2011年11月19日@HCMC 今福民生 

 

他のホーチミン便りはこちら