スマートフォンとモバイルRDC                          2011.04.19


 米国のある大学で日本語授業の手伝いをしている日本人留学生。先週のバイト代を小切手で受け取った。iPhoneを取り出し、裏書きした小切手の両面の写真を撮り銀行へ送信する。これで自分の口座に入金される。最近米国で始まったMobile RDC(Remote Deposit Capture)サービスだ。

 

 米国では2004年からCheck 21 Act*によって、物理的に小切手を銀行支店に持ち込む代わりに、PCで小切手をスキャンしそのイメージ(substitute checkという)を一般家庭やオフィースから送ることにより自分の口座に入金ができるようになった。これはRDC(Remote Deposit Capture)とよばれ、2001年の9.11のように航空便などの長距離運送手段が利用できなくなったときに小切手の持ち込みや、銀行間で交換ができなくなることを想定して制定されたといわれている。米国の場合、給与は銀行振込(direct deposit)か小切手で支払われる。小切手のデジタル・イメージが法的なドキュメントとして認められたことにより多くの米銀でRemote Depositが採用されるようになった。 Independent Community Bankers of Americaの2009年6月の調査では、2011年までには78%の銀行が採用し、500万人がこの仕組みで銀行との取引を行うと予測している。

 

 最近ではスキャナーによるイメージの読み取りだけでなくiPhoneのカメラで撮影した小切手のイメージを銀行に送ることにより口座入金できるサービス Mobile RDCも開始されている。中でもUSAA*連邦貯蓄銀行のiPhoneとGoogle Android OS搭載のスマートフォンを使ったサービス(Deposit@Mobile)が有名。USAAは国内外への転勤が多い軍関係者を顧客としていることと、リテール店舗が少ないこともあり早い時期にこのサービスを開始した。 

 

 一方でMobile RDCでは安全性や偽造、イメージの品質、本人確認などに問題はないのだろうか。安全性や本人確認は通常のモバイル・バンキングと同等であろうが、イメージ品質や偽造の問題については若干の議論が残りそうだ。しかし米国においては小切手の現物処理にかかわる時間やコストが社会全体の効率性を阻害してきたためこの分野の効率化のニーズは高い。昨年9月にはJP Morgan ChaseがMobile RDCのサーヒズ(Chase Mobile App)を開始を発表した。昨年12月時点で上記以外にこのサービスを提供している銀行はState Farm Bankほか少数の銀行。今後も更に多くの銀行の参入が予想される。

 

 決済手段として小切手があまり使われない日本でもモバイル端末やスマートフォーンの機能が高度化し日常生活を営むに必須の道具となりつつあるのは米国と同じだ。市民の情報へのアクセスはPC、インターネット、モバイル端末、スマートフォン、デジタルTVなど多様化し、さらにブロードバンドはドキュメントをイメージ化しネットワーク経由で送受信することを容易にしている。米国のCheck 21 Actの正式名はCheck Clearing for the 21st Century Act だ。21世紀の銀行サービス、日本においても更なる利用者への利便性の向上が期待される。

 

*注

Check 21 Act: 正式名はThe Check Clearing for the 21st Century Act。2004年10から施行された米国連邦法。オリジナルの小切手を受け取ったものがそのオリジナル小切手のデジタル版を作成することにより物理的なドキュメントの更なる取扱いを必要としないというもの。

USAA (United Services Automobile Association):元はUnited States Army Automobile Association。軍関係者とその家族に対して自動車などの損害保険、銀行サービス、生命保険、投資とフィナンシャル・サービスを提供する。インターネットや電話を使った金融サービスにかかわるダイレクト・マーケティングのパイオニア。

 

参考

JP Morgan Chase home page

USAA home page

Bank system & technology Sep. 26, 2009

Baking information security July 9 2010

American Banker Dec. 30.2010

 

MS