ホーチミン便り

第十回(最終回) Dec.3, 2011                              2013/01/18掲載

 さて、いよいよこれが最終回、もうこちらに来て3か月が過ぎました。

私が何を感じたか、感じているか、キーボードに任せてみます。(筆に任せると昔の人は言いましたが)・・・

 私は子供のころから海の向こうには何かがある!という好奇心でいっぱいでした。祖父が船乗りだったこと、父も海軍で外地にいたことを聞かされていたり、横浜生まれで船の汽笛がときどき聞こえた記憶など残っている、遠縁がハワイにいたりした、そんな環境からなのでしょうか?長じて100%外資系会社だけれど社員はほぼ日本人だけという環境で長い時間を過ごしました。昼休みに机の上に足をのせて話をしている人、大げさな身ぶり手ぶりで話す人、「anyway」「aggressiveに考えろ」「よくremindしてくれ」などのように端々に英単語を挟んだ奇妙な会話が横行していました。この時感じたのは、これは「異文化だ」少なくとも自分が今まで無意識のうちに過ごしてきた環境とは違う・・・という感覚でした。しかし、いつのまにか自分も溶け込んで違和感などなくなりました。いい加減なのか適応力がついたのか??

 その後、縁あって中国の会社や人とやり取りする仕事をしました。この時は協業していた中国人とはいっても彼は家族全員が日本国籍をとり、日本に自宅も構え、子供は全く日本人として育っていました。はじめのころは同じような感覚を持っているものだ、と思ったことがありましたが、付き合いが長くなり、緊密な間柄になると、今度は「なんでこんなことが起きるのだ?」「どうしてそうなるの?」ということを時々感じるようになりました。同じようでいて絶対に違う・・・ということを強く感じました。

 よく、日本人、中国人、韓国人が同じアジア人とビジネスをするとき、相手が金髪、青眼ならば問題が少ないのに・・・といいます。お互い違うところがある、ということを意識したうえで交渉をするから、はじめから距離を置いている・・・波間に岩礁が出て見えているところを航行するようなもので、自然に注意をしながら進みます。ところが言葉を発せず、髪型、ファッションセンスを同じようにしたら、ほとんど区別のつかないアジア人同士は、ついつい同じような外見イメージから無意識に相手を同国人として対応し判断の混乱をきたします。そのあげくが「あいつはなぜこんこんなこともわからないのだ!」とばかりに本来の行き違い以上に感情のもつれがことを大きくする傾向があります。

 日本に長く、日本社会をよく理解している人で「まるで日本人みたいですね!」と言われる人がいます。こういう人の悩みは、逆に本国に戻ったとき、折衝力、対応力が低下することだそうです。東京の大学で教鞭をとっている中国人女性のケース:あるとき本国の政府高官が来日、同伴の通訳がカゼで倒れたため、その高官と大学が同窓であったことから探し出され、急拠ピンチヒッターを依頼されました。すでに重要なスケジュールがあり断ったのですが、重要かつ緊急だから3倍の通訳料を払う、と懇願され、事の重大性を考え通訳を引受けました。結果は首尾よく運び、その高官は満足して帰国したそうです。しかしその後電話にも出ず、彼女は連絡もできず泣き寝入り。「中国でこういうことはよく起こることをわかっているはずなのに油断した!私、日本人になっちゃった」と悔しがっていました。また韓国人研究者、オーストラリア人会社員は、たまに帰国したとき、家族で食事をしに行くと、みんなで出かける際に、父親が「さて、娘よ久しぶりの会食だ。好きな物を言いなさい、何が食べたい?」するとドップリ日本に浸かっていた娘は「ねえねえ、お父さんは何が食べたい?お母さんは?何がイイ?」と周りの人につい聞いてしまったため「みんなから、どうしたの???」「人が変わっちゃたようだ」と言われた、と・・・自分たちの同じような態度、親からの同じような反応を期せずして2人ともが経験したと語っていました。

 ところで中国が改革開放から30年以上たち、その勢いは加速度的に膨れ上がってきています。

また、経済の進展は後戻りできず、太った体を維持するには更にエネルギー、食糧を必要とします。

 自身が生きていくためには周りの草をドンドン食べなければなりません。これは日本が明治以降たどってきた道に似ていなくもない、と感じます。中国は人口、国土面積ともにASEAN10か国+日本、韓国の約2倍です。グローバル化が進み、あらゆることにソフトウェア的なGlobalな規格が求められます。携帯電話はPC機能を吸収しながら、ネットワーク(昔は回線ネットワークといってましたが)で縦横無尽につながり、地球上すべてで使える社会になってきました。こうなるとユーザーの数の勝負です、自動的に中国が世界をリードできる立ち位置に立つことになります。一方絶対多数の人口数と著しい経済力は自身の体力を維持するために必死になります。グローバル化が進み、意図的であろうとなかろうと中国の潜在力が世界に大きな影響を持つようになっています。特にアジアでは。

大学の卒業式にゆく女学生
大学の卒業式にゆく女学生

 さてベトナムと日本。国の面積、人口は似たり寄ったり、顔かたち、体つきもよく似ている。しかし国の成り立ち、気候、言葉は非常に違います。似たようなパーツはたくさん使われているようですが、エンジンの仕組み、制御方法、出力もだいぶ違います。が中国に対する立ち位置は非常に近いものがあります。中国が嫌いでもない、悪いわけでもない。しかし、周辺国がこの巨大な隣国の生命維持活動に飲み込まれずに自己主張していける環境を整えない限り飲み込まれることは必然だと動物的に感じています。ベトナムと日本は中国の西端と東端の関係でもあるのです。今回ベトナムで短期間エトランゼとして過ごす機会が来たときに思いました。象を嫌いになったわけではないけれど、つぶされないためにベトナムと日本は手を取って旗を振り、象にこちらの存在を意識させなければならない、日本と同じく巨象の下敷きになりそうな西端のベトナムとはどのような国、人、社会なのかと興味湧いてきました。本とか資料とかだけでなく、もっと肌で感じたいとホーチミンの街を歩き回ったこと、ベトナムの会社の中にドップリ浸かり、自分なりの肌感覚を得られたと思い、勝手に皆様に駄文を送りつけた次第です・・・ネネ聞いてよ、ベトナムってさあ・・・というような感じでしたでしょうか。

 ところで、お読みいただいている多くの方が、知りたいと期待しているところ;アオザイの見目麗しい女性のことについて、お話しできなかったのは残念でたまりません。私が男前でない、時間がない・・・という理由で眺めるだけで皆さんにお伝えできるようなことはありませんでした、この少しうら寂しい事情ご理解ください。つぎにまた滞在する機会があれば・・・しかし年々再々、加齢による障害が出る今日この頃ですからお約束はしかねますが。

 人生至る所に青山あり、と聞きます。皆様のご健勝ご精進、安寧な日々を送らんこと祈念しここにキーボードから指をおろします。

 

これでホーチミン便りを終わります。                   2011年12月3日@HCMC

                                                     今福民生

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