2011年の海外金融ITトレンドとクラウド                     2011.02.02

 米国では金融危機以来、規制や制度対応へのIT投資が、新規顧客の獲得や斬新な商品開発の足かせとなっているようだが、新しいテクノロジーをベースとした顧客インターフェースや、顧客の行動から知見を得たクロス・セリング、金融機関のクラウドへの取り組みなど、日本にも関連する2011年の金融ITトレンドのキーワードをひろってみた。

 

  1. 米国金融規制改革法(Dodd-Frank Act)*やBASEL III*などの制度/規制対応やGRC*対応
  2. インターネット上での自動決済の増加にともなうPCI*の新しいセキュリティー・ガイドライン
  3. ハイテクを利用したセルフサービスによる個人金融資産管理
  4. カード会社、銀行、テレコムのコラボによるモバイル決済の拡大とRDC*やGPSを利用したモバイル金融サービス
  5. TwitterやFacebookなどのソーシャル・メデアを分析やコンテント・トラッキングといったCRMツールとして利用。
  6. プロードバンドの進展による従来ドギュメント・ベースのサービスのWeb化
  7. サーバーの仮想化、データの被複製、LEEDビルデング*などによるグリーン・イニシャティブ
  8. アウトソーシング、SaaS, サーバー仮想化、クラウドなど使った分だけ支払うpay-as-you-goモデルの進展
  9. ハイブリッドなコミュニティー・クラウドによる業界のクラウド化
  10. 予測・行動モデリング・ツールを利用するビジネス・インテリジャンスが本格的にCRMと結びつく
  11.  ビデオ・テクノロジーが企業にとってのコンテツ配信の主役となる

(主な出展 Bank Technology News Jan 2011)

 

この中から日本の金融機関においても今後進展が期待されるクラウド・コンピューティング、ソーシャル・メデアをツールとしたCRM、RDC*/GPSを利用したモバイル金融サービスなどについて直近の海外動向を報告してゆきたい。

金融機関におけるクラウド・コンピューティングの直近の動向

その第一回としてクラウド・コンピューティングの直近の動向についていろいろなソースからの情報をまとめたい。

その前に簡単にクラウド・コンピューティングについて整理しておきたい。

クラウドの料金体系はユーザ数もしくは使用量に応じた課金が一般的で、そのサービスの形態や、展開の方法で以下のように分類できる。

サービス・モデルでの分類

  • SaaS(Software as a Service)     CRMやERPなどの適用業務をインターネットなどを経由してオンデマンドのサービスとして提供する。
  • PaaS(Platform as a service)     アプリケーション開発、データ、ワークフロー、セキュリティー・サービス、データベース管理、ディレクトリー・サービスなどのコンピューティング環境をインターネットなどを経由してサービスとして提供する。
  • IaaS(Infrastructure as a service)  ネットワーク、セキュリティー、メーンフレーム、サーバー、ストレージ、テレコム・キャリアー・サービス、IT施設、ホステングなどのコンピューティング・インフラをインターネットなどを経由したサービスとして提供する。

   その他

  • DaaS(Desktop as a service)     デスクトップ・クラウドともいい、仮想デスクトップ環境をサービス事業者のサーバー上に置き、ネットワーク側で実行するシンクライアント・ソリューション。
  • BPaaS(Business Process as a service)   経理、給与支払い、請求業務など従来BPO(Business Process Outsourcing)といわれていたどの企業でも必要とする基本的なプロセスまで含めて提供するもの。

展開モデルによる分類

  • パブリック・クラウド   不特定多数の利用者によって共同で利用するモデル。
  • プライベート・クラウド コンピューティング・リソースを共同ではなく占有使用するモデル。自企業内にリソースを持つ場合と、プロバイダーのリソースを占有使用する場合がある。
  • ハイブリッド・クラウド  重要とされるシステム及びデータはプライベート・クラウドを活用し、比較的簡易なシステムやデータはパブリック・クラウドを利用するといった双方の特徴を活かした利用形態。
  • コミュニティー・クラウド 特定の業界やグループ内で共同利用するクラウド。

最近の海外金融機関におけるクラウド動向        2010.12~2011.01

 米国においても、多くの銀行ではクラウドは開発環境や人事といったノンコアの業務での利用が中心で、勘定系や顧客情報系といった分野での利用はこれからのようだ。 しかし地域のコミュニティーバンクなどでは特定の業務につてSaaSの利用が始まっている。たとえばXetus社*は住宅ローン(Mortgage loan)の業務パッケージをSaaSの形で提供している。コミュニティー・バンクでは住宅ローンの新規件数が年によって数件から数十件と大きく振れるため使用料に応じた課金方式のSaaSでサービスをうけるケースが増えているようだ。

 

 一方でコア・アプリケーションでのクラウドの利用の模索も開始されいる。 ロンドンに本拠をおくMisys社*はマイクロソフトと共同でマイクロソフトのクラウド プラットフォーム (PaaS) であるWindows Azure Platform(ウィンドウズ・アジュール・プラットフォーム)を使って、銀行のコア・アプリケーションをクラウドで提供することを検討しているようだ。

 

 またオランダに本店をおくABNアロム銀行ではフォーティス銀行とのシステム統合で定義済みのビルティング・プロックをプライベート・クラウドの一部として共通のインフラを提供することで、標準化されたエンドユーザーコンピューティングのプラットフォームをIBMと構築しようとしている。

 

 特に金融機関のコア・アプリケーションについてはセキュリィーと自己による管理の必要性によりプライベート・クラウドが主流となると思われるが、コストとのトレードオフが課題となる。これを解決する方法として金融機関よるコミュニティー・クラウドにコア・アフリケーションの一部を移行していくことも検討されているようだ。

*GRC (governance, risk management, and compliance)

*Dodd-Frank Actとは、7月21日、オバマ大統領の署名を受けて成立した米国金融規制改革法(The Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)のことで、金融システム全体の健全性を監視し、消費者保護を行い、健全な経済基盤を作って金融危機の再発を防ぐことを目的とした法律

*BASEL IIIは08年秋の世界的な金融危機の再発防止を目的に、09年のG20サミットで導入に合意された国際展開する主要銀行に対する新たな自己資本規制。

*PCIデータセキュリティスタンダード(PCIDSS:Payment Card Industry Data Security Standard)は、 クレジットカード情報および取り引き情報を保護するためにJCB・American Express・Discover・マスターカード・VISAの国際ペイメントブランド5社が共同で策定した、クレジット業界におけるグローバルセキュリティ基準。

*RDC(remote deposit capture)は小切手のイメージをiPoneなどのカメラで撮影し、銀行に送って預金入金すること。

*LEED とは、米国グリーンビルディング協会(US Green Building Council)によって開発・運用されている建築物(敷地利用を含む)の環境配慮基準の認証制度。

*Xetus社 サンフランシスコに本社をもつモーゲッジ・ローンのアプリケーション・パッケージを提供する会社。XetusOneというローンオリジネーションのSaaSサービスを提供している。

*Misys社 主に金融サービスとヘルスケア業界にソフトウェアやサービスを提供しているロンドンに本拠を会社。BankFusionというコア・バンキング・ソリューションをもっている。

 

参考記事

American Banker   Jan.4,2011

Bank Technology News   Dec 2010 ,Jan 2011

US Banker   Jan. 2011

IBM Press Release Oct. 8, 2010

 

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